浦霞の本社蔵
塩竈市は日本三景松島湾の一部千賀の浦に面した人口6万1千人ほどの港湾都市です。古く江戸時代藩政期の塩竈は、藩主伊達氏の崇敬篤い塩竈神社の門前町として、また仙台の海の玄関口として仙台への荷揚げ港、松島遊覧の発着所として諸税免除等の恩恵を受けながら大いに発展しました。訪れる多くの旅人のために旅篭や歓楽街が神社の門前近くに軒を連ね、活況を呈していたと云われています。現在は年間558万トンの貨物を取り扱う商港として、168億円の水揚げを誇る漁港を有し松島湾の観光港も併せ持ち、全国的にも重要港湾として位置付けられております。
蔵元佐浦の沿革
享保年間に塩釜神社のお神酒酒屋として創業。佐浦家の初代・尾島屋富右衛門は、はじめ麹製造業を営んでいましたが、1724年に酒造株を譲り受け、以来塩竈神社の御神酒を醸し続けてまいりました。大正12年頃、東北地方で陸軍大演習があった時に、当時摂政官であった昭和天皇にお酒を献上する栄を賜りました。それを機に万葉時代からの歌枕であった塩竃を詠んだ源実朝の歌、「塩がまの浦の松風霞むなり 八十島かけて春やたつらむ」(金槐和歌集)から引用し浦霞と命名しました。昭和に入り、第二次大戦の戦時下でも製造を続けてまいりましたが、企業整備の波にのまれ、仙台酒造株式会社浦霞工場となりました。昭和30年代に入り、仙台酒造株式会社は解散となり、昭和31年10月1日に株式会社佐浦が誕生いたしました。蔵元佐浦は故平野佐五郎杜氏が中心となって南部杜氏修行の道場的な役割を担い、地酒の品質向上に大きく貢献致しました。その後、「浦霞禅」が吟醸ブームに火をつけ、全国の酒蔵で使われている酒造り酵母協会12号は佐浦から採取されたもので地酒ブームのさきがけとなりました。 酒蔵は観光桟橋からもほど近いところにあり、数十年前までは蔵の裏手まで船が入り、荷の積み下ろしを行なっておりました。 敷地内には江戸時代末期に建てられた土蔵や大正時代の石造りの蔵があり、仕込み蔵として現在も使用しております。
これまで多くの鑑評会において数々の好成績をおさめております。
国税庁主催の全国新酒鑑評会では本社蔵が平成7年、8年、9年、12年、13年と金賞を受賞しています。矢本蔵は平成11年、12年、13年と金賞を連続受賞しています。東北清酒鑑評会では毎年金賞に輝いております。
平成14年東北清酒鑑評会では本社蔵・矢本蔵ともに 吟醸酒の部で優等賞を頂きました。
宮城の若きリーダー「佐浦社長」
今年(平成15年)は2月に入ってからも例年になく連日厳しい寒さが続いております。酒造りにとってこの寒さがなによりの自然の恵みです。その酒造りの最終段階「吟醸造り」が続く塩釜の株式会社佐浦を訪れました。
宮城の酒蔵の中でも一ノ蔵と並んでダントツの石高を誇る蔵元の若き経営者13代目佐浦弘一社長は、280年の歴史を誇る蔵元佐浦の代表取締役社長として、日本酒造組合中央会評議員、宮城県酒造組合青年部宮城醸和会の会長、日本酒造青年協議会会長、そして東北青年清酒協議会監事など数々の要職についておられます。40才の佐浦社長は慶應義塾大学卒後日本コカ・コーラ株式会社に入社、その後経営学の勉強のため2年間ニューヨークでの留学を経て佐浦に入社いたしました。入社後、矢本蔵や研究棟の建設など数々の事業を成功に導き、昨年先代が亡くなられた後代表取締役社長就任されました。
「造り酒屋の長男として生まれ、蔵人や瓶詰めの従業員、まかないのおばちゃんや事務所の人々、蒸した米の匂いやほのかに漂うお酒の香り、土蔵の倉のちょっとしめった空気、そんなものに囲まれて育ちました。日本酒は私たちの生活に潤いや安らぎ、豊かさをもたらしてくれる素晴らしいものだと思います。そして、そんな日本酒に関わる仕事ができることを心より嬉しく感じています。今後もより多くの人達に、日本酒の素晴らしさを伝えて行きたいと思っています。家訓というか酒に関していえば心を込めて良い酒を造って、お得意さんには誠意を持ってあたれという言い伝えみたいなものがあるので、それを守っていきたいと考えています。」との言葉どうりの優しく誠実な人柄と、その静かな物腰には人を引きつける魅力に溢れておりました。
酒造りで一番大切なことは?と尋ねると「米・水はもちろんですが杜氏の酒造りへの熱意と卓越した醸造技術が一番大切です。」との答えが返ってきました。そのため佐浦では宮城の蔵元では唯一、平野部長以下本社蔵小野寺杜氏、矢本蔵鈴木杜氏とも通年杜氏として仕事に専念できる環境を整えております。
浦霞の酒質について尋ねると「気軽に飲めて、飲みあきしない酒、自己主張が強くない酒です。なんと言っても料理と一緒に飲める楽しい酒が浦霞の目指す酒ですね。酒造りは杜氏に任せておりますが、蔵元として酒質の安定と向上を目指し、加えて新製品開発のため分析室や研究室を新設いたしました。」
これからの酒造りについては、「日本の四季に合わせた季節感のある酒をもっと強化したいと思っています。私は、春先や夏は絞りたての酒で新酒の香りが良い生で飲む生酒、秋口にはちょうど酒も熟成してきてうま味が出たひやおろし、年末にはお燗をして飲んでも良いような酒、こういう従来の酒の中で季節に応じた酒を出していけば、消費者のみなさんに楽しく飲んでいただけると思っております。」
アンテナショップとして、中央の情報を収集するため東京赤坂の日本酒バー「れくら」や東京銀座のワインバー
「グッドドール」 へ資本参加したり、地元の方々に日本の伝統文化としての酒造りへのご理解を深めていただくため4年ほど前から佐浦社長みずから講師となって「うらかすみ日本酒塾」を開いたり、、また醸和会主催で20代から30代の女性をターゲットにした「日本酒を楽しむ女性セミナー」を4回にわったて開いたり、宮城の蔵元の若きリーダーとして先見性に富み、積極果敢に活動されております。
今まで宮城の酒蔵を取材した中で、特に佐浦で感じたことは次代を担う若いスタッフが多いこと、そして酒造りの王道を極めるため最新の分析機器を揃え、杜氏、蔵人、社員が一丸となって楽しそうに働ていることでした。
「私どもの願いは、私たちが心をこめて醸した酒を最高の状態で皆様方に味わっていただくことです。今後も、皆様により満足いただける品質と品格のある酒造りを続けるため最善の努力をし、宮城の地酒・浦霞として、日本文化の伝統を守っていきたいと考えております。
酒造りの現場
昭和30年代、蔵元佐浦は、名杜氏とうたわれた平野佐五郎氏の元、南部杜氏の修行の場として全国に知れ渡っておりました。「良い酒を造るためには損得抜きでいけ」との11代社長の考えのもと、高品質の酒造りを目指し、平野佐五郎氏に酒造りを任せ、米を磨き、設備を整えました。その後、佐五郎の甥の重一氏を中心に若い杜氏があとを任されています。原料米は主に宮城県産の蔵の華、トヨニシキ、ササニシキ、ひとめぼれや八反、兵庫県産山田錦を使い、仕込み水は松島湾近くのやや硬水の井戸水を使用しています。酵母は自家酵母(浦霞酵母)を用い、低温でじっくりと時間をかけて発酵させます。各段階において基本に忠実に丁寧に造ることを心がけています。
本社蔵杜氏
小野寺 邦夫 (岩手県室根村出身)
平成9年より本社蔵杜氏
平野重一氏に才能を見込まれ佐浦に入蔵。
矢本蔵杜氏
鈴木 智 (地元塩釜出身)
平成8年岩手県出身者以外では初めて
南部杜氏協会より「南部杜氏」の資格を認定される。
現職南部杜氏最高の匠
平野 重一取締役製造部長
(岩手県北上出身)
平成元年 労働大臣表彰(現代の名工)
平成五年 叙勲(勲六等瑞宝章)
南部杜氏最高の証・首席大蔵大臣賞を4回受賞。
南部杜氏の世界では知らない人はいないと云われる大杜氏・故平野佐五郎(叔父)杜氏の片腕として最初石巻の平井酒造に入蔵、昭和24年浦霞醸造元にこうじ師として入蔵しました。現在故平野佐五郎杜氏の偉業をしのび平野会が組織され石川県萬歳楽で有名な小堀酒造の中居杜氏が会長をしております。
昭和30年より頭となりました。
昭和33年杜氏修行のため森島酒造(茨城)出向。
昭和34年春の新酒鑑評会で金賞受賞(森島酒造)
昭和35年より浦霞に戻り杜氏職。
昭和35年以降
常に新酒鑑評会では金賞入賞しています。
平成28年5月他界されました。
故平野重一氏の酒造りとは
「酒造りは毎年毎年一年生です。」
「吟醸造りが酒造りの全ての基本です。」
吟醸造りについて?
「山田錦」や「蔵の華」などの大粒の酒造好適米を使います。熱を持たないよう時間をかけて高度に(60%以下)精米します。すると白色のビーズのように丸く小さな玉となります。洗米は通常は機械的に行いますが吟醸造りは全て手洗いで行います。浸漬作業は、水を米粒の中心まで水を十分吸収するようまた吸いすぎないよう限定吸水によって行います。麹は「突き破精型(つきはぜがた)」の特殊な若麹を用います。製麹操作を早めにして、低温で菌糸を成長させ香気の高い酒造り用の麹を育てます。・・・「破精(はぜ)」とは蒸米に接種した麹カビの胞子が繁殖して肉眼やルーペなどで菌糸が白く見えるようになった状態を云います。また「突き破精」とは、蒸米の表面は斑点状に破精ていて、破精ていない部分も残っていますが、米粒の内部までよく破精込んでいる状態を云います。酒母も吟醸酒用として評価の高い清酒酵母を選び、仕込んでからは低温でゆっくりと発酵させます。・・・一般に普通酒の場合、モロミの醗酵中の最高温度は15度Cあたりで20日間前後で発酵を終えますが、吟醸酒では10度C以下で30日間前後もかけて発酵させます。この低温発酵は、発酵理論上から見て限界に近い温度だと云われ、低温であればあるほど発酵に日数がかかり、手間とコストもかかります。こうして、フレッシュでフルーティーな吟醸香が生まれます。香りのほか、吟醸酒としてのもう一つの特徴は味にあります。米を高度に磨き上げるため米粒の外側にあるタンパク質が少なくなり、そのために出来た酒のアミノ酸も少なくなることにより雑味が減り、上品で淡麗な味わいとなります。この香りと味わいを活かすために吟醸酒は通常、冷やまたは「ぬる燗(かん)」にして飲むとよいとされています。
▲戦後間もなくまで使用していた「はね木」の糟
▲仕込み蔵の2階にある酒母室
▲開放式の仕込みタンク
▲密閉式仕込みタンク
▲酒質の検査などに使う分析機器
▲新製品開発のための研究室
▲研究室の若いスタッフ
▲自家培養酵母保管庫とドラフトチャンバー